ついでにもう一つ,ヘリオット先生から紹介させてください. 「ジョック」 というタイトルのお話です.
ジョックはある農家で暮らす痩せっぽちで貧相な牧羊犬.
現役の働き手であり,また優秀なシープドッグ競技犬でもあった.
そんな彼の愉しみは車追いであり,例えばヘリオット先生が農家から帰る時には,いつも決まって物陰に身をひそめ,発車と同時に猛ダッシュするのであった.
やがてジョックとメス犬の間に7頭の子犬が生まれる.親の血なのか教育なのか,この子犬たちが揃いも揃って車を追い始めるのである.先生の車には,大小入り乱れた犬たちが追いすがるようになる.
最初,余裕で先頭を切っていたジョックであったが,子犬たちが成長するにつれ,次第に自分のスピードが脅かされているのを感じる.ある日,足がもつれ子犬たちの疾走に巻き込まれ,あわや大怪我という事態まで起こる.それでも,プライドをかけ必死に先頭を守ろうとするジョック.
彼との駆け引きを楽しんできた先生は,そんな様を心を痛めながら見守る...
とまぁ,だいたいそんな風に話が進んでいくんですが,むしろストーリがどうのこうのというよりは,のどかな農家の情景を描いた,という感じの作品でした.
で,やっぱりこの話もいいなぁ〜と思ってしまうのです.
牧羊犬たちの暮らしていた世界を感じさせてくれます.
車追いを 「やつの生きがいだな」 と笑ってすませていられる世界.
嫌いな人間や犬や機械には無理して会わなくてもいい世界.
家の周りに何気なく犬がうろついている世界.
犬が仕事の余暇を楽しんでいる世界.
そして,犬たちを見守るゆったりした温かい視線.
そりゃあ,人にとっても犬にとっても,食べていくためには今よりずっと厳しい環境だったたかもしれません.でも彼らはそんな世界で力を発揮するように作られ,人間の期待に応え続け,誇りを持ち,何世代にも渡って暮らしてきたんでしょう.
そんな彼らを,今の自分たちのものさしだけでアレコレ言うことが,何だかフェアじゃないような気までしてくるのでした.