Tuesday, October 30, 2007

じぇち子とカイ坊 (3)

こんな風に,人への接し方が正反対のじぇちとカイ.

なのにこの2頭の印象はとても良く似ている.
どこがって言葉にはしにくいけれど,多分,人に対する思い入れとゆーか,意識の仕方とゆーか,とにかくそんなところに余分な力が入ってる感じ.
それがまっすぐ表に出るか,一回ひねって出るかの違いはあるけれど.

そしてはっきり共通してるのが,,,抗いがたい魅力.
2頭を眺めていると,のど元に迫り上がる愛おしさで身体が火照ってくる.
そして自分の中ではすでに確信めいたものまであるが,これがボーダーコリーなんじゃないだろうか?

人に対する意識の過剰さ.
自分に関心を惹きつけるための悪魔のような勘と人たらしの技.
とにかく人と絡んでいたいという欲望.
ともすれば作業能力や頭の良さに隠れてしまうけれど,何百年もファーマーたちの心を捉えてきたのは,実はここなんじゃないかと思う.

もちろん彼らの魅力は,仕事ができてタフで賢いところ...だろう.
でもそれだけで身勝手でジコチューな人間様が,何世代にも渡って,しかも何頭も傍に置いておくとは思えない.
いや,そうかもしれないけどそうは思いたくない.

いくらできるったって所詮は犬だ.
思い通りに作業してくれるわけじゃないし,うるさいし,汚いし,餌も食らえば糞もする.
だからそれ以前に,彼らはこの犬たちが大好きだったのに違いない.
「仕事に役立つ」なんてのは,ちょっとした口実なんじゃないのかな.

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じぇちとカイのもう一つ共通点,それは持って生まれた家畜に対する集中力である.
羊や鴨を目前にすると,2人とも気持ちの高まりで身体が震えてくる.
言ってみればこれは,家畜に対する "過剰な意識" だろう.
偏執的と言ってもいいかも.
そしてこれが,どこかで人に対するそれと繋がっているような気がする.

うん,きっとそうだよ.

本能や性格で一括りにできる部分とはちょっぴりずれた辺りで,この希少で加減の難しい気質が大事に育まれてきたに違いない.
何百回も何千回も方向修正しながら.
家畜追いの能力を追求することが,同時に,この愛すべき性質を護りながら育てることになったのだろう.

だからきっと,ハーディングが必要なんだ.
昔ながらの牧畜が廃れてしまった今でもね.
この子たちがいつまでもボーダーコリーであるために,そして私たちを魅了する犬であり続けるために...

じぇち子とカイ坊(2)

一方,風のようにファームにやってきて,未だに風のように駆け回っているカイラ.
この娘の距離はじぇちと対照的である.

バックヤードに出してフリーにすると,30秒に一回駆け戻ってきて泥まみれの手でタッチしないと気がすまない.
部屋の中では,後頭部をぐりぐり押し付けながら人の膝によじ登ってくる(膝上から他の犬を見下ろすのがお気に入りみたい).
ファームのメンバーと初対面したときなんか,いきなり膝の間に割って入ってきて喜ばせてくれた.

カイはためらい無しに人に来る.
嘘のばれた子供のように頭を垂れトボトボ歩くじぇちとは対照的だ.
こちらの目を見据えながら,弾むように最短距離を駆けてくる.
そのまま,群メンバーを押しのけるようにして身体を押しつける.

臆面も無く人に甘える様を見せつけられ,修行の足りない男たちは動揺を隠せない.
年若いぐはまぁ仕方ないとして,年長のサンまでが目をうるうるさせて膝に乗ろうとしてくるのはいかがなものか(悪いけどおまえはダメ.いや,嫌とかそーゆんじゃなくて物理的に無理だから).

そう言えばカイが来た頃から,男2頭の関係がどことなくギスギスしている気がする.
情けない...

じぇち子とカイ坊(1)


じぇちのことは,もうあちこちで書いてきた.
どうも彼女のことを考えると心乱れるようで,どの文章も壊れている.

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思えば初対面のときから,彼女にはどこか幸薄いイメージがあった.
フォークリフトが走り回る空港の貨物置き場に置かれた犬用ケージ.
その一番奥からこちらを窺う目つきには,子犬らしいオープンな無邪気さはなかった.

同じ一つ屋根の下に暮らしながら,できれば一人にしておいて私のことは放っておいてと,居間に集ったメンバーを土間の隅から上目使いで見ていたころが懐かしい.

こいつははっきり言って悪い.
それも "ぐ" のような可愛げのあるヤンチャではなくて,そーだなー,むしろ腹黒いという感じ?

ナメたお腹の 出し方で あなたのウソが わかるのよ~♪

でも・・・でもさ・・・,じぇちはカワイイのよ.
いくら裏切られても,いくら翻弄されてもね.

こんなこと書き残すと後で恥ずかしくなって悶え苦しむのが目に見えているのだが,,,そんなじぇすがどーにもこーにも可愛いくて仕方ないのである.

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嗚呼みっともなし.
でも本当に彼女は憎めない.
人の言うことなんかキッパリ無視する不良娘なのに.

感じが伝わるかどうかわからないけれど,彼女は人との距離のとり方が独特である.

家の中でもそれとなく離れていて...寄ってきた時に手を伸ばすとスッと避け...撫でたら迷惑そうなのに背を向けるとひゃんひゃん文句を垂れ...寝ている人の腹の上をずかずか歩き...おやつをねだる時はずーずーしくアゴを乗っけて...何を考えているのかサッパリわからない(多分,何も考えてないのだろう).

人のことを気にしてるくせに無関心を装ったり,そっけなくしたり,ときに「ずるく」振舞う.
こんな押したり引いたりの攻撃に,おじさんはあえなく陥落するのです.

Monday, May 14, 2007

春の風

日曜夜11時.
慣れない部活に疲れた娘が早々に寝室に引き上げ,昼間のゲストの応対に疲れた犬たちはクレートに入って眠りこんでいる.
同じくゲスト応対...とゆーかビールの後に羊を追い掛け回して気持ち悪くなったHiroさんは呆然としている.
本当だったら物音一つしないはずの居間に,隅のクレートからごご,ずご,ごごご,というおっさん臭い音が響いてくる.
一ヶ月ほど前から加わった新入りのイビキである.

というわけで紹介します.
カイラ(Caoire)という7ヶ月齢の子犬.
いつもは犬のことなんか何にも言わず愛想もクソもないブリーダーが,珍しく雄弁に "she is small but tough" と一言書いて寄こしたとおりの鉄砲玉のような娘である.
先住犬たちにもまったく物怖じせず,全身を「?」にして何にでも鼻を突っ込み,眠るとき以外は決して止まらず,機を見て飼い主の懐に飛び込んでくる,ひじょーに子犬らしい子犬.

顔は...大変申し訳ないが...ぶちゃいく.
この若さにしてすでにこすっからい悪党顔だ.
でも誰かさんと違って,視線をまっすぐこちらに向けてくれるからうれしい.

意図したわけではないが,結果的にはりん姉と入れ替わるような形になった.
その他にも身の回りのいろんなことが重なり,いよいよファーム暮らしの第2フェーズが始まるんだろうという予感とともに飛び込んできた新しい風.
爽やかな涼風じゃなく,黄ばんで生暖かい風だったけど.

ところで,鉄砲玉がファームで最初に心を奪われたのが...ぐび穴.
オリジナル版は制作者の気質そのままにダラダラと広がっていったが,彼女はあくまで地球の中心に向かって鋭く掘り下げていく.
そう言えば彼女の行動のすべてがそんな感じ.
無尽蔵の集中力と体力が,小さな身体に詰まっている(と良いなぁ).

部屋に入れようと声をかけると,穴から上げた鼻面(というか穴から引っこ抜いた頭全体)にべったりこびりついた泥がまぶしい.
「乾くまで入るなっ!」って,子犬のうちから締め出される犬も珍しいよな.
 

Wednesday, March 21, 2007

三角関係

彼のために断っておくと,さん=アニキは "良いヤツ" なのです.

人には忠実だし,他犬には威張らないし,身体はごついけれど家の中ではどちらかというと身を縮めるようにして生きている.
見知らぬ客犬にも一番親切だ.
作業のときは誰よりも一生懸命だし,何事にも真面目に取り組むし,力持ちだし,おまけに人のことが大好きで声をかけてもらえるのを心待ちにしている.
変なユーモアまであって,食餌の後にヤケにうるさいと思ったら,クレートの外に飛んだたった一つの飯粒に向かって全身を矢印にして吼えていたりする.

こうやって並べてくと,ほらね,彼って良いヤツでしょ?
でも一緒に暮らしてると,そこはかとなく暑苦しいとゆーか,ときどき存在自体が疎ましくなるとゆーか.
何なんだろーな,これって.
気の毒よなぁとは思いつつも,身体を擦りつけて甘えようとする彼に対しては,つい「あっち行ってろ」と邪険にしてしまう.
すると,ここがまたいかにも彼らしいのだが,教えたわけでもないのにいつのまにかそれをコマンドと解釈していて,器用にもその場からざざざざざっと後ずさりしてみせ,真面目くさった顔で次の指示を待っている.

それがうぜぇっつーんだよてめーは!!
...こほっ...失礼.

一方,じぇち.
こいつははっきり言って悪い
それも "ぐ" のような可愛げのあるヤンチャではなくて,そーだなー,むしろ腹黒いという感じ?
大体,こっちの言うことなんか聞いちゃいないし,牧場内でフリーになると捕まるもんかと逃げ回るし,いけないとわかってるのに目を盗んで(てゆーかほとんど開き直って)ウンチ食いを強行する.
真正面から目を覗き込んでくるりん姉やアニキと違って,横目&上目使いでチラリチラリとこちらの顔色を伺う.
彼女には声を荒げたことすら無いのだから,何か後ろめたいことでもあるのか!と問い詰めたくなる私を誰が非難できましょう.
ただいつもコソコソしてるのかと言えばそーではなく,寝ている人の上を平気でスタスタ歩いていったり,自然体でテーブルの上に飛び乗ったり,はぁぁ?っつーくらい図太いところもある.
彼女には翻弄されっぱなしである.

でも・・・でもさ・・・,じぇちはカワイイのよ.
いくら裏切られても,いくら翻弄されてもね.

普段はなかなか寄って来てくれないから,彼女にはついやさしい声で「いいから,こっちおいでよ」と声をかけてしまう.(さんアニィと対照的やね)
上目使いでやって来る彼女をつかまえて気持ちを込めて撫でる.
でも,せっかく来てもすぐに放免してしまうんだな.
だって「ヤだなー,もういーかなー,用事があるんだけどなー」と顔を背けて微妙に身体を硬くする彼女を見ていると,自分が借金のカタにさらった貧乏娘をいたぶるヒヒ爺みたいに思えてくるから...

そんな彼女ですが,たま~に(ほんとにたまに)ピトッと身体をつけて甘えてくる.
オジサンただもうそれだけで嬉しくて,身体ぐにゃぐにゃの何でも大目に見てやろーじゃねーか星人に変身してしまうのでした.

そこで格言: この世には2種類の犬がいる.得な犬と損な犬である.

P.S.
ところで,そんなじぇちが気を許して一番信頼してるのがさんなのです.
教えてくれ,あんな男のどこがいーんだ!?

Tuesday, January 02, 2007

ぐびちとぐび穴のあやしい関係

どうも~,ぐれぐです.
よろしくな.

この冬はあったかいなんてゆだんしてたら,さすがに寒くなったね.
きのうなんか,せなかにぞくっときたと思ったら土間でちびっちまったよ.
いつもはがまんできるのに,ざまーないね.

オレは,寒いからといって部屋でゴロゴロなんかしない.
やること一杯なんだから.
ごはん食べたり,ウンチ出したり,外で走ったり,部屋で遊んだり,出かける家ぞくを見おくったり,客を迎えたり,そんなのだけでも大変なのに,たまにはニワトリにカツ入れなきゃいけないし,ネズミの匂いをとったり,外の見張りもこなさなきゃいけない.
そうやって数えてくと,1日ってすごくたくさんのことがつまってるんだけど,それがふと気がつくと何日も何十日も何百日もすぎちゃってたりする.
なんかだまされたような気がするけど,ま,世の中,そういうもんかもね.

2かいに住んでたまっしろい猫や,ケンカっぱやいガングロ羊たちがいなくなって,そのかわり,がーがーしゅーしゅーうるさい鳥がいたりして,いつのまにかファームのメンツが替わってる.
オレをけっ飛ばしやがったアホ面のにしきだけは,あいかわらず,ず~っと草を食みつづけてるけど.

そーいや,にしきにけっ飛ばされたオレはからだも小さかったし,ジャンプも低かったし,おしっこの回数も多かった(と思う).
このオレとはぜんぜん違う.
あれだけこわかったりん姐さんも,気がつけばオレよりチビになってる.
なんとゆーか,なんだかかわいく思えちゃったりするんだよね,わるいけど.

そんなことを考えだすと,あたまがグルグルしてくる.

つまり,オレがオレだと思っているオレは,ほんとにオレだったんだろーか?ってね.
もしかしたらそいつは,オレよりからだがちっこくて,ジャンプが下手で,おしっこの近い別のオレだったのかもしれない.
まっしろな猫がいるファームと,まっしろな猫がいないくて変な鳥がいるファームって,同じものなんだろうかそれとも別なんだろうか...
オレが両方のファームにいるんだから同じかな...ってそうか,そのオレとこのオレは違ってるかもしれないんだから,それはわからないのか...
う~ん???

思いきって聞いてみたら,オヤジはこう言った.

「それはさーぐれぐ,きっと "とき" のせいだよ」

とき? なんだそりゃ?
それってどこにあるんだ? 食えるのか? 匂いは?
いきおいこんで質問すると 「犬には "とき" はわからんのだ」 と言ってにげるんだけど,オレは,オヤジが困ったようなあせったような表情をするのを見逃さなかった.
そうか,それはきっととてもだいじなもので,どこかに隠してあるにちがいない...

だからオレは庭を掘る.
前あしで,ばっばっばっばっばっばっばっばっばっばってね.
それ見てオヤジはやっぱり困ったような顔をするから,たぶん "アタリ" だ.
きっと何か隠してる.
ほらもう少し,ばっばっばっばっばっばっばっばっばっばっ...
穴はすごくでかくなって,オレのからだがすっぽり入るくらいになった.
そのうち,前あしがいたくなって舌がでろんと出ちゃうけど,あたまがグルグルするよりはずっと気分がいい.

そういえば,穴ぼこってたしかにそこにあるんだけど,見ることもさわることもできない.
知ってたか?
もしかしたら "とき" ってこの穴ぼこみたいなものかもしれない.
そうだ,これをどんどん大きくしていったら,"とき" がどんなもんかわかるかもしれない.

よーし,もっともっと掘るぞー.
忙しいから,またな.