Wednesday, January 28, 2009

町内犬地図 (3)

話がずれた.
とにかくその頃には町のあちこちに親交のある犬がいて,彼らと挨拶を交わすことが日課だった.
そのおかげで,幼なかったまろ少年は,随分と気分的に救われていた気がする.

子供は気楽で良いと言う人もいるが,そんなこともないと思う.
大体子供なんて,勉強とか行儀とか,つまらないことばかりさせられている.ほんとうに怒ったり喜んだりできるのは(つまり本当に物事を楽しめるのは),年を重ねていろんなことが見え始めてからだ.
そのくせ,生きることへの不安とか混乱は,大人と同じか,むしろそれ以上に感じている.実際,子供は庇護されないと生きていけないんだし,知識や経験を使って,わけのわからない不安から目を逸らす術も知らない.何より,言葉を操ってその不安や混乱を人にパスすることができない.

皆ではないにしろ,そんな子供にとって,街のあちこちに知り合いがいるというのは,実はとてもありがたいことではなかったかと思う.
少なくとも自分はそうだった.
飼い犬も含めて,彼らは決して幸せには見えなかった.幸せどころか,生きるか死ぬかの瀬戸際というようなのも少なくなかった.そんな彼らが,それぞれの厳しい生活を背負ったまま,うれしげな顔で,たまに出会うだけの少年に親しみと礼儀を示してくれるのである.
たまたま,特に気の良い2,3頭に出会えただけで,その日一日,町や社会に受け入れられた感じがすることもあった.
大人にとって取るに足らないことかも知れないが,そんなことを経験できる機会は,多ければ多い方がよいと思うのである.

(4)に続く
 

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